IRS-Beta、失意の試聴

この前の日曜日、インフィニティのハイエンドスピーカ、IRS-Betaを聞きに名古屋の某中古オーディオ店に行ってきました。(関連記事:旅人さんの日記
さすがに距離があることもあり、行って聞けないとまずいので、事前にお店に連絡して「鳴らすにふさわしいアンプは店舗にないけれど、なんとかやり繰りします」、「今日は試聴フロアの担当が休みを取っているが、明日は出社するので朝からセッティングを行います。」旨の回答とともに試聴させて頂けることを確認の上、旅人さんの車に乗って計4名で当日未明に都内を出、朝には現地に到着しました。朝食をとった後、暫し駐車場に停めた車内で休憩しつつ開店時間を待ちました。

午前10時を回った後にその店に入り、即座に思ったのは「あ、しまった。ここ、ジャンクの店じゃないか…。」でした。動くのか動かないのかよくわからないようなものが置いてあったり、未完成でパーツというべきかすら憚られる謎のものが店内にごちゃっと置いてあったりするし、何より店内全体が埃っぽい。もちろん、ジャンクにはジャンクの良さがあることを理解するのですが、今のわしはオーディオにジャンクを求めていません。この時点で相当気が引けてしまいました。

店内を1階、2階と見渡しましたが、目標としていたスピーカらしきものは見つからず、ならばということで独り地階に降りて見たところ、白髪の割と年齢の行っていそうな店員が巨大なスピーカ群の前の事務椅子に座っていました。目当てのスピーカは確かに聳えているのですが、事前にメールで回答頂いたような、セッティングを行っている様子は全くありません。仕方なくこちらか声をかけました。「先刻、メールでBetaとSigmaの試聴をお願いした鳴沢と申しますが…」、店員は「ああ」とばかりに声を上げて、私に尋ねるのでした。「アンプな何をお使いで?」わしは素直に「アキュフェーズのA-45とA-70です」と答えると、店員は「ふーん…」というふうな反応をして、そして想像だもしないようなことを言い始めるのです。「このスピーカは無限の可能性を持つが、あなたのアンプではその性能は活かせない。せめて同じアキュフェーズでもA-200を4台、そしてDG-58がなければ。そして今それはここにはない。ここにあるアンプでは音は出るがとてもこのスピーカの性能を発揮できるものではない。聞かない方が良い」

驚きました。試聴をしに事前にアポイントまでとって参上したというのに、約束していたセッティングを行うこともなければ、しまいには「聞かない方が良い」です。この趣味をそこそこ長くやってきたつもりでしたが、このような経験は初めてです。店員はそのあと、「このスピーカを鳴らすのだったら、最低でも2000万円用意しないとダメ」、「このスピーカの為に部屋を作るぐらいの覚悟はあなたにあるのか」、「この店はこのスピーカを15台売ってきた。名古屋だけでなく、東京までセッティングしに行ったこともある。みんなドクターなどと行ったお金持ちばかりで、そこで試行錯誤をしてやっと鳴るような代物だ。そこまでやる覚悟がないのなら、このスピーカは活かせないしそこらの安いスピーカより鳴らない、と誤解される。」と色んなことを言われましたが、それらは全て「だから、聞かない方が良い」という言葉につながっていました。

さて、困りました。わしは今日試聴をしにきたわけだし、ここまで運転してくださった旅人さんや、同行していた方にも申し訳が立ちません。状況を打開すべく、こちらの話を全く聞く気がないままずーっと説教(?)を続けようとする店員の言葉を遮って言いました。「私は今日試聴のために、遠路はるばる徹夜までしてここに来ました。どうしても聞かせてもらえないのでしょうか。」、「このスピーカは今日初めて聞くわけではありません。15年前、仰るような環境で聞き、そこの音がいかに素晴らしかったを覚えています。今日の環境はそこまで鳴らないというご主人の意見も理解できる。しかし、だからこそこの環境でどの程度鳴るのか聞いてみたい。」しかし、店員は前述のような話を改めてした上で、やはり「聞かない方が良い」を繰り返すばかりでした。この店員には幾らこちらが筋道立てて話をしても多分らちが開かない、ということで、目一杯こちらが譲歩することに。「…ご主人が言われる通り、私が色々勘違いしている可能性は否定しません。ですので、いかに自分が誤った認識であるか、この耳で確かめたいのです。聞かせてください」とお願いしました。すると仕方ないな、と言わんばかりにケーブルを持ち出し、やっとセッティングを始めてくれました。

ここまで説教を聞き始めておよそ30分間が経過しており、前日から殆ど睡眠を取っていなかったこともあってわしはすでにヘトヘトでした。もうどんな音でもいいや、聞くだけ聞いて帰ろう…と、そんな気分になっていました。だから、それ以降出てくる音については一切否定をしませんでした。実際、音量入れてもひずみが感じられないことや、音場がスピーカ後方に形成されるなど、確かに素晴らしかったのですが、それを褒めながらも敢えて店員の言葉を立てるために「この環境では完調ではないですね。」などと言い、機嫌を損ねないよう演技するので精一杯。一方でウィークポイントといえば、この店員さんのいう通りセッティングが甘いのと駆動系が弱かったんですかね、スピーカからの音離れがイマイチだったし、バランスもおかしかった。あと選曲が悪い。最初にオルガンを持って来た時点で「あーあ、やってくれやがった」と思いましたよ、正直。(IRS-Betaといえば低域、と勘違いしている人が多いのですが、むしろ中高域こそ至極であって、どちらかといえば低域はブーミーです)途中でNASAのケーブルを使ったXLRケーブルなどに交換されたりしてましたが、確かにクリアになったもののこれで200万円?とか思ったのも事実。そもそもNASAのケーブルってそんなに偉いん?ただのMIL規格じゃないか、などと思ったりもしたのでした。

その後何をやりとしたかあまり覚えてません。ただ、店員曰く「このスピーカを鳴らすのにはセッティングのテクニックとかそう言うのは要らない。とにかくお金だけ必要。」と繰り返し仰られていたのが印象に残っています。また、その後自分の持って来たCDもかけたけれど、音量を入れて聞いていることもあって、部屋全体が音に包まれ、それでいて歪み感を感じず自然に聞けるのは良かったのだけれど、なんとなく密度は薄いな、くらいにしか思わず、早々に切り上げて、さっさと店を後にしてしまいました

疲れのあまり、車中では混乱してなんだか色々話をしていたような気がしますが、ほとんど覚えていません。ただ、帰ってから無性に悔しくて、腹が立っていたことを覚えています。

帰宅後、自分のメインシステムを改めて聞いてみました。「うわ、これラジカセの音?」と思うくらいIRS-Betaと差が感じられました。そういや店舗のIRS-Betaは音量大きめだったよなと、と試しに音量を上げてみたのですが、ある音量を超えると妙にヒステリックでうるさく聞こえるようになり、「うーむ、これが性能の差なのか?」と思いましたが、もしかして音量を上げてうるさく聞こえるのはセッテイングのせいかも、と思いIRS-OMEGAのOwner’s Manualを久々に読み返してみたところ、Beta同様に左右間隔は2m以上空けるべき旨のことが書いてあり「あー、もしかして、まだOMEGAの性能も全然追い込めてない?」と言うことに改めて気付いたのでした。
そうして総合的に考えると、もう少しOMEGAを追い込んでからも良いかも、と思い、Betaの購入は断念することに。そもそもあんな音量、うちのような一般の家屋では出せるはずもないですし。

OMEGAのセッティングの課題に気づいたことや、一瞬とは言え夢が見れただけでも良しとすべきなのでしょうが、それにしても、店員のああいう行為がまかり通ってしまうオーディオ界に強い失望を感じました。個人的にはとても残念です。

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