1999年の5月、殆ど衝動買いとも言って良い状況でDVD-VideoプレーヤDV-S9を購入した。当時、既に発売より1年半近く経過しており、また、DVD-Audioの絡みで近々後継機が出ることは推測に難くなかったが、それでも、DVDの高性能機はこのプレーヤとDENONの最高機種くらいしか選択肢が無く、また発売当時に「…これは凄い!これでLDは終わるかも知れない」と唸らされたこともあって、思い入れも一入であった。さらに、当時は半年後には実家に戻れるつもりでいたので、LD-S9と並べればシリーズ物として良さげだなぁ、とも思ったのもある。もっとも、同じ「S9」シリーズにしては、異様に造りが凝っていて「本当にシリーズ物?」と正直思ったが。
しかし、実際にはその半年後に実家に戻ることは出来ず、結局、宇都宮に引っ越すことになる。また、実家にはDVD-Audioも聴ける他社製プレーヤが置かれた。こうして、S9シリーズを並べて置く、という夢は閉ざされてしまった。
…が、後にDV-S9はLD-S9と言うより、HLD-X9の造りに近いことを知る(要は開発者が同じとか何とか)。言われてみると…デザインが所々似てるし、何よりも、トランスポートの大きいLD-S9と比べてDV-S9の方が4.8kgも重いのはおかしいと思っていたのだった。HLD-X9は17kgだから、その意味でも何となく合点がいく。また、画質にしても、LD-S9とDV-S9じゃその差は方式の違いを超えて歴然としていた。
ただ、HLD-X9は定価で35万円もする弩級プレーヤである。おいそれと買えるわけがない。そもそも、もはや売っているのだろうか?売っていたとしても、値引きはたいしたこと無いだろうし、何より在庫として長い間倉庫に眠っていたとすれば、トラブルだって発生しやすいだろう。そう思い、心に引っかかりつつも本気で検討する気は起きなかった。…というか、実家にある機械より高い物を買うことは、私にとって「恐れ多い」ことだったのだ。音や映像の世界を極めることは非常に困難な道である。いや、私にとって困難なだけかも知れないが、少なくとも、音のためにオーディオのセッティングに神経を尖らせていた父の姿を見て、「ああ、私にはあそこまで出来るだろうか?」と正直思ったのである。
しかし、Infinityのスピーカの件で「Intermezzoシリーズが出て、IRSシリーズもいよいよ最後」と聴き、勢いでIRS-OMEGAを手にしてから、その考えは変わる。…そう、怖がっていてはいつまでも伸びない。もっともっと高みを目指さねば…。
ところで、HLD-X9の購入検討は、実は昨年10月末にも行っていたが、やはり高価であったし、「そもそも今更LD…?」という気すらした。故に、検討はそこで途切れる。心に幾ばくか引っかかる物を残しつつ…。
その後、昨年12月末頃であろうか、「HLD-X9最終生産」の報を見聞したのは。しかし、私の回りでLDプレーヤを欲しいと言う人は皆無だったし、LDプレーヤのメリットというか、必要性を見いだせないまま、出来る限り視線を逸らして忘れるつもりであった。将来的に「ああ、そういうメディアもあったね。」位の気持ちでいられるように。
しかしながら、先日LDプレーヤを貰ったことで、むしろ「もっと高性能なヤツを…!」と、気持ちが戻ってしまう。正直、高額だし迷いもあった。が、受注生産でありながら約4割引で買えることを知り、「一つのメディアのフラッグシップがこの値段なら安いくらいだろう」と考えを改めることになる。
結局、私はHLD-X9を購入することに決めた。このプレーヤが私にどの程度の感動を与えてくれるかは正直未知数である。が、一つの時代の終焉、その余韻に浸れることはある意味贅沢なのかも知れないな、と思った。
こうして、かつて高いステップだと思っていた「夢」は、自分が今踏みしめんとする「現実」へと変化するのだった…。