きっかけは今年の春、リビングルームのオーディオ機器(メインシステム)の整理をしようと思った時に遡ります。
オーディオ機器の整理と併せてメインシステムから切り離すことになる各メディアについて、それぞれデジタルデータ化して保管することにしました。市販のソースであれば絶版のものでもない限り買い直せば済むのですが、自分自身で記録し、編集したもの唯一無二も少なからずあるものですから、これらは実時間を掛けてでもそうする価値があると考えたのです。
その唯一無二のもののなかの一つに一本のビデオテープがありました。記録されている映像は高校時代所属していた放送部のMIIビデオカムコーダで撮影したものをVHSテープにダビングしたもので、その中には当時の友人であったNくんに頼まれて編集した、通称「Nビデオ」も含まれていました。それらの映像は久しく目にすることこそなかったものの、当時どのようなことをしたかは粗方覚えていましたし、正直、その映像を今後見たいと思うかどうかは分かりませんでしたが、「将来見たくても見られない」という事態を一応は避けるべく、デジタルデータ化を始めました。すると…、意外にも「懐かしい。この映像はまるで昨日のように鮮やかなのに、もう遥か昔のことになってしまったんだなあ」と、急に胸を締め付けられるような気持ちになりました。また、当時の「Nビデオ」が今時の大画面ではとても見苦しいものであることなどから、「これを最新の環境でリメイクしたらきっと綺麗になるに違いない」と思い立ち、改めてiMovieで編集をし、ちょうどその直後に誕生日を迎えるNくんに誕生祝いのメッセージをfbで投げるついでにこのリメイクした「Nビデオ」を渡したところ、「たまには会って食事でもするか」ということになり、卒業以来四半世紀ぶりの再会を果たしました。
再会当日、あまりにも久しぶりすぎてロクな話題がないかも、などと言う心配は全くの杞憂で、まるで先月会ったばかりの友人に再会したような感覚に襲われるほど身近で遠慮のない話が出来て、大変充実したものになりましたが、その中で印象的だったのが、私と家内の関係について話したのちNくんより「あの頃から、自分の付き合っている相手には隠し事とかしない、って言っていたよね」と言われたことでした。
私は社会人になった以降もしばらくの間は「高校時代こそ人生の至福の日々で、あの頃のように周りの全てを投げ打ってでも何か一つのことに一生懸命になりたい」と思っていたのですが、それらの結果が散々であったことや、その過去を上書きできるほどの日々をその後過ごしたこと、そして、今日の立ち位置を得るのに高校時代に周りの全てを投げ打ってしまったことで遠回りをしたのでは?と昨今思うようになってしまったこともあって、高校時代はむしろ暗黒の時代だったのかも、とネガティブな過去としての印象が強くなっていました。が、先ほどの一言をNくんから聴くことで当時のことを思い出し、その過去が暗黒ではなく今日に至るステップの一つだったんだ、と改めて思い返させられてハッとしました。
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その一生懸命の一つのこと、とは恋愛でした。当時、本当に好きで好きでどうしようもなくて、それしか頭になかったと言っても過言ではない人がいました。その人の頬に優しく触れてみたい、そして抱きしめてみたい…。そう思えた最初の異性でした。しかし、最初の一年目は、自分の気持ちこそその人の誕生日に伝えることが出来たものの、あまりにも積極的に色々なことをしてしまったせいかお付き合いすることは叶わず、二年目にようやく付き合い始めることになるのですが、お互い子供だったと言うこともあるのでしょうね、最初は誰が見ても仲睦まじく、むしろ余人が近寄ることすら憚れるほどの関係と言えるほどだったのに、大人の真似事をすればするほど心がすれ違っていき、我に返った時には既にその人は私の元を去っていました。卒業と言う物理的な変化もあったのですが、それ以前より気持ちは既に離れていたのです。私は当時、全てを失ったと言う絶望感から憔悴し、一思いに楽になった方が良いかもね、などと言うことまで頭を過ぎったりしたのでした。
その後、幾つかの経緯があって「関係を戻そう」と相手から提案されたこともあったのですが、私は相手と私自身の気持ちを断ち切るつもりでかなり厳しい回答をしたことを覚えています。それは安易に時計の針を戻すのではなく、まだ見ぬ未来に自らの運命を託すと言う自分なりの決意でもありました。それはまた、新しい心の旅の始まりでもあったのです…。
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このような経緯だったこともあってこれらの過去を意図的に封印して、時々それ以外の過去を思い出し苦悶しつつも出来るだけ前を見てきたつもりでしたが、今年はついにその頃の記憶の封印を解くきっかけになったように思います。…いや、単なる「きっかけ」だけではなく、この封印を解くのにこれだけの時間が必要なほど強い気持ち・思いだったんだ、とも言えるかもしれません。そして、今年はその人に出会って気持ちを伝えた一年目のそれと曜日の巡りが同じだったことに気づき、年初のエントリーである「昔日の蛍とその先にあったもの」も含め、全てが偶然だとは思えないような状況だったように思います。
その人の誕生日、今の家内にこの頃の話を初めてし、ようやくあの頃の自らのポリシーを全う出来たような気がしています。そして、改めて次の一歩を踏み出せるようにと、これらの過去を踏み台にして前方にある未来に向かって突き進んでいこうと思います。